なぜFacebookの「性別」は50以上もあるのか?
この記事は、LGBT支援活動およびLGBT活動家の方々を批判するものではありません。なぜ性的マイノリティに関する話には混乱があるのか、長年の経験から自分なりに考えて書いたものです。考えが足りないところが見受けられましたら、生あたたかくご指導いただけると幸いです。
私がジェンダー・フルイドという言葉を知ったのはネットでだった。
ネットサーフィンの常として、どんな経緯でそのページと出会ったのかあまり覚えていないものだが、そのときはたぶんネットでランジェリーを探していたのだと思う。
出会ったのが、この記事だったから。
俄然興味を持って、「Gender Fluid」でググったのだけど、まだそれほど情報がないのが分かっただけだった。
ただ、次の記事でFacebookのジェンダーオプションに追加されていることを知った。
spotlight-media.jp
実はFacebookに「ジェンダーオプション」なんていうのがあるのも知らなかったのだけど、さっそく基本情報を変更することにしたのだった(これは今のところ、いったん言語をUSに変更しないとうまくいかないみたい(*1)。
同時にFacebookのジェンダーオプションが50以上もあると知ったのだけど、なんでそんなに「性別」の数があるの?と普通の方は思うのではないかしら?
正確にいうと「性別」ではない。性別としては「その他」だ。「その他」ではよくわからないのでオプションで示す。とはいえ、50種類以上もの「性別小分類」があるとFacebookは思っているのだ(*2)。
そもそも「LGBT」という言葉も「性別」ではない。
「LGB」は、自分の「性愛の対象」について示しているし、Tは「自分の性別に違和感がある」ことを示している。
単にLGBTが比較的人口が多いし、そのため世間の人も理解しやすい。
あと連携もしやすい。日本でいえば、新宿二丁目のようなところに性的マイノリティであるLGBTが集まりやすい。別に理解しあっているわけではないのだが、同じ性的マイノリティということで連帯感はある。
つまりLGBTとは極めて政治な言葉であり、それを嗅ぎ取った人たちが、私も仲間に入れろと次々と名乗りを上げるので、「LGBTTQQIAAP」なんてことになっている。
では、なぜこんなに「性別小分類」が多いのだろうか。
それは、性区分(生物的な性)と性自認と性対象と性文化がごちゃごちゃになっているからだ。*3
LGBTで指摘した通り、LGBはもともと性対象の話だし、Tは性自認の話だ。
世の中にはややこしい話がたくさんある。
G(ゲイ)の中にも、自分の性自認が男という人もいれば女と思う人もいる(もちろんその他もいる)。性区分が男(♂)で性自認が男で性対象も男だとGに違いないけれど、性区分が男で性自認が女で性対象が男だと、これはGか?
T(トランスジェンダー)だという人がたぶんほとんどだろう。だけど、このタイプで自分はあくまでもゲイだという人もいたりする。
では、性区分が女で性自認が男で性対象が男の人は? 少ないけれど実際にいる。LGBTに当てはまらないのは明らかだ。
性文化が出てこなかったので、その例も挙げると、先ほどゲイの中に自分の性自認が女(「オネエ」と言われる人に多そうである)だと感じている人がいると書いたが、この中にも女装する人としない人がいる。ユニセックスな服装を好む人もいる。
この辺いちいち例は出さないが、テレビに出てくるオネエ系の人たち(似非ゲイもいるからややこしいけどw)を何人か思い浮かべると分かると思う。
要するに組み合わせなのだ。
性区分(男、女、その他)×性対象(男、女、両方)×性自認(男、女、中性、無性、その他)×性文化(男性的、女性的、中性的、無性的、両性的)ーー中にはあり得なかったり、実際にはいなかったりするパターンもあるだろうが、掛け算すれば225通りになる。*4
上の分類は学問的に定説になっているわけではなく、あくまで私が考えたものだが、 50種類でも全然足りないことはお分かりだろう(ちなみにFacebookにはもともと性別と性対象は2つの欄に分かれていて、それは今でも変わらない。多少は分かっているのだ)。
もちろん225通りに全部名前をつけるのもナンセンスだし、常に性区分・性対象・性自認・性文化の4つを念頭に置きながら話をするのも不便だ。
たとえば「クイアー」という言葉があるが、これはもともと性文化の話だと思う。
ロンドンあたりで女性的なファッションやメイクを取り入れた男性たちがクイアーの元祖だと思うが、たまたまゲイが多かったので(ほとんど?)、ゲイと同一視されていた。
日本で女装していたらゲイ(あるいはオカマという侮蔑語もある)という単細胞的判断と似ている。クイアーももともとは差別語、侮蔑語の類だ。
それに対して「クイアー」側から異議があり、「確かに僕らにはゲイも多いかもしれないが、それとクイアーであることはまた別の話(そりゃあ分類基準が違うもの)ということで、LGBTQみたいに付け加わっていくのだろう。
まあこういう混乱を整理するのは面倒なので、Facebookは今後もジェンダーオプションを増やし続けると思う。
*1:2018年5月28日に試してみたらできるようになっていた。
*2:Facebookが思っているというよりは、ユーザーが入力したものが選択肢として保存されているだけのようだ。
*3:性嗜好(フェティシズムやSMなど)は入れていない。それを含めてカテゴリーを考えたらもう収集がつかないし、少なくとも「ジェンダー」の話には入れるべきでないだろう。
ただ、女装はフェチだとか大雑把な言われ方は問題で、別の議論が必要だ。
*4:本当は単純な掛け算ではだめで、分類の組み合わせをすべて挙げて計算しないといけない。つまり、性区分、性対象、性自認、性文化、性区分+性対象、性区分+性自認、性区分+性文化、性区分+性対象+性自認、性区分+性対象+性文化、性区分+性人自認+性対象、・・・・・・、性区分+性対象+性自認+性文化のすべてについて計算して合算しないといけない。面倒なのでしなかったがw、ますます50では足りない。
もちろんここまで考えるのは実用的ではない。だが、LGBTなどという言葉がいかに大雑把で、漏れがたくさんあるかということは、こうやって考えればすぐに分かる。LGBTに7つぐらい付け加えても、自分が含まれていないと思う性的マイノリティーはまだまだたくさんいるはずだ。
私もジェンダー・フルイドという言葉を知って、ようやく自分が何者かを知った。カテゴライズは嫌なことも多いけれど、アイデンティティを確立するためには必要なことでもあるのだ。
なお、中性と無性とその他の違いとか、そもそもその他って何よという話はまた別の機会にしたい。